親族承継において留意しなければならないのは、
それが相続問題と密接にリンクするという点である。
相続問題であるが故に、本来の事業承継の問題と関係のない遺産や
介護やその他の感情的な諍いがでてきてしまい、
事業承継そのものが阻害される結果にもなりかねない。
例えば、男兄弟が3人いて、次男に継がせるということにする場合には、
他の男兄弟からの不満・妨害等が出ないように、
別の遺産を相続させる等の兄弟間の公平を図るようにつとめる必要がある。
「遺留分」とは、所定の相続人に保証された最低限の取り分のことをいう。
本来は、被相続人は、生きている間は自分の好きなように、
自分の財産を使えるのであり、自分の財産を好きなだけ、
自分の選んだ相手に贈与することもできるはずなのであるが、
民法上定められている遺留分を侵害するような贈与がなされると、
結果として、贈与の効力が一部失われてしまうのである。
ここで、例えば、ある人が会社(中小企業)を経営しており、
その株式を67%所有していたとする。67%というのは、
株主総会において特別決議を単独決議できるだけの持分であるが、これを全て、
会社の後継者である次男に全て贈与して、死亡してしまったとする。
ところが、他にめぼしい財産がなかったため、
長男や三男が遺留分を請求すると、当該部分については、
原則として長男・三男に渡さざるを得ず、
その後の会社経営に支障を来すことになる。
①遺留分に関する民法の特例
上記のような遺留分の問題を解決するために、
「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(事業承継円滑化法)に
おいて、「遺留分に関する民法の特例」が定められている。
その特例の1つが「贈与株式を遺留分算定の基礎財産から除外できる制度」、
すなわち、旧代表者の生前に、経済産業大臣の確認を受けた後継者が、
遺留分権利者全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受けて、
旧代表者から後継者へ贈与された株式等
(株式の他には工場などの事業用不動産が考えられる)について、
遺留分算定の基礎財産から除外できる制度である(除外合意)。
また、遺言を書いた当時は「この程度の財産を残しておけば大丈夫」と考えていても、
死亡時点では株式の評価額が膨らんでおり、
他の財産(例えば預金)が遺留分に満たないという場合に
対処することができるようにしたものが、
「遺留分算定の基礎財産への算入に際し贈与株式の評価額を
あらかじめ基礎財産から除外できる制度」であり(固定合意)、
これも「遺留分に関する民法の特例」として定められている。
②株式の買取資金確保
遺留分減殺請求に対しては、価額弁償の抗弁を出すことができる。
つまり、○○株の株式を引き渡せと請求されても、
それに相当する金員を支払うことで株式の引き渡しの請求を免れることができる。
しかし、当然ながらその買取資金が必要となってくる
③株式の種類株式化
「議決権制限株式」という種類の株式がある。
これは、通常、優先配当受領権がついたものとセットになっており、
要するに、配当は優先的に受領できるけれども議決権がない
(経営に口出しできない)という権利である。
予め、通常の議決権株式を後継者に渡しておいて
(あるいはその旨の遺言を書いておいて)、
その余の議決権制限株式を他の相続人に相続させるという方法が考えられる。
ここで問題となってくるのは、
議決権制限株式の評価額と通常の議決権株式の評価額とで
どれほど差異があるのかということであるが、
税務上は、差異がないのが原則とされており、
これがそのまま遺留分減殺請求の価額弁償の評価に直結するのかどうかは
断言はできないが、
このような税務評価上の考え方が全く無視されるということもないと思われる。
④遺留分の放棄
遺留分に関する民法の特例を使うためには、
要件が厳しく手続も単純ではないため、
推定相続人全員に上特例の内容を理解させてその同意を得るというのは
かなり困難であり、いらぬ疑いを当事者に与えて、
代表者の生前にかえって推定相続人間で紛争を惹起するおそれさえある。
そこで、「この財産とこの財産を贈与ないしは相続させるから、
これ以上は相続において主張しないでもらいたい」ということで、
遺留分の放棄をしてもらう方が容易である場合も考えられる。