第6回 利益配当

有限会社小平食品は、冷凍食品の加工業者で、

2代目社長の小平良介の手腕により急成長、現在約200名の従業員を抱えている。

良介の会社は、良介の高校の後輩である日野俊平が代表取締役を務める

「株式会社武蔵村山」に出資している。

同社は、焼肉屋の経営を業務とし、現在、関東に3件の店舗を展開している。
本日は、日野が良介の社長室に近況報告に来ている

年に何回でも配当が可能~小平食品社長室において~

良介「そろそろ、決算だなあ。1年なんてあっという間だなあ。どうだい、今期の決算は?」


日野「申し訳ありません。今年もちょっと配当はできそうにはないんです。」


良介「そうか。お前のところは例の米国産牛肉の騒動は影響ないのか?」


日野「その点については、うちはもともと100%国産牛なので特に問題ありません。以前の国内での狂牛病騒動のときは地獄でしたけど。」


良介「まあ、あれはどこも大変だったらしいな。うちの近所でも焼き肉屋なのに、突然、魚介料理を売り出したからな。」


日野「いやあ、あのときは、先輩のところから、オーストラリア産の牛肉を仕入れさせてもらえたからなんとかしのげましたが、あれがなかったら、うちも商売替えせざるを得ませんでしたよ。」


良介「うちは、もともと、牛肉は扱っていないから、あまり沢山は都合してやれなかったけどな。それにしても、国産牛100%なら店の人気はあるんじゃないの?
日野 売上は、去年と比べて2割減程度になりそうです。なるべく、安易な価格引下げ競争には加わらないように頑張ってみたんですが、明らかに客足が減ってしまいまして、ついに値下げしたんですが…。現在は、客足は微増なんですが、客単価が減っちゃいましたんで、こんなことなら価格引き下げしない方がよかったのかなとも思っているんです。もう、自分でもどうしたらいいのか分からないんです。大株主である先輩の会社にも迷惑かけてすいません。」


良介「別に迷惑なんて。うちは、お前の会社の利益があがったら配当してもらえればいいんだよ。今の会社法では、利益があれば、いつでも配当できるみたいだから、年に3回でも4回でも配当してくれよ。」


日野「はい、頑張ります。」


良介「じゃあ、そろそろ別のお客が来るから失礼するな。」


日野「つい長居しちゃいました。お時間頂戴してすいませんでした。では、失礼します。」

剰余金とは~小平食品相談室において~

良介「よう、お待たせ。それで、例の国の保証付の低利融資の件どうなった?。」


立川「ちょっと、追加の資料で必要なものがありましたので、今、経理の方から受け取りました。」


良介「そうか。宜しく頼むね。それはそうとさあ、今、知り合いと話をしてて、会社法では、年に何回でも配当していいなんて聞きかじりのこと話しちゃったんだけど。これって本当の話なの。」


立川「ええ、本当です。もちろん分配可能額の範囲内でないとダメですけれど。」


良介「分配可能額は、会社法でも変わるわけではないんだろ?」


立川「実質的には変わりません。ただ、会社法では、「剰余金」という形で、決算日から定時株主総会までの新たな変動を加味した上で、分配可能額が定められます。」


良介「うんっ?資産から負債、資本金、準備金を引いた額が配当可能額となるのではないのか?」


立川「細かい点をおいておけば、基本的にはその通りです。

ただ、従来は、期末決算によって確定した金額についてのみ分配可能としていたため、原則的には、最終の貸借対照表の純資産額のみを基準としていたのですが、会社法では、例えば、決算日後に準備金取り崩しによって生じた剰余金増加分も配当可能となるのです。」


良介「ほほう。つまり、会社法の下では「決算してみましたが、どうも配当可能利益がありません。しかし、それでは株主の方に申し訳ありませんから、なんとか準備金をこれから取り崩して配当します」ということが可能だというわけだね。」


立川「そのとおりでございます。」

臨時計算書類とは

良介「それでね。会社が1年に何度でも配当できるという話に戻るんだけど、例えば、定時株主総会で配当すると剰余金が減るよね。」


立川「ハイ。減ります。」


良介「それで、しばらくしたら、またドーンと儲かっちゃったものだから、配当しようかなあというとき、どうすればいいの?」


立川「まず、臨時計算書類を作って、その臨時計算書類について株主総会の承認を受ける必要があります。」


良介「臨時計算書類とは?」


立川「臨時決算日現在の貸借対照表と期首から臨時決算日までの期間の損益計算書のことです。」


良介「要は決算だろう?ということは、何度でも配当できるって言っても、決算してしかも株主総会を開かなきゃいけないのか。」


立川「監査報告書に無限定適正意見がついている等の一定の要件を満たしている場合には、株主総会は不要ですが…。」

配当決議機関を取締役会にすることができる

良介「それでもさあ。年に何度も決算なんてやってられないよ。ちなみに、今、「株主総会は不要」って言っていたけど、通常の配当については、株主総会決議はやはり必要なんだろ?」


立川「監査役会及び会計監査人設置会社で、定款の定めがある場合には、一定の要件の下、取締役会決議で配当することが可能です。」


良介「えっ、そうなの!じゃあ、ちょっとした規模の会社だったら株主総会で利益配当の決議をしなくなるっていうわけか。」


立川「そうなるでしょうね。」

役員賞与の取扱い

良介「しかし、そうすると配当はいいとして、役員賞与も利益処分の一つだから、取締役会の決議で足りるとなると自分たちでいいように決めちゃう危険があるぞ。」


立川「ところが、その辺は、やはり、会社法を作った人も危惧したようで、役員賞与については、引き続き、株主総会決議を要するとされているのです。」


良介「そうだよなあ。素人の俺が気づくんだから、法律を作る奴らが気づかないわけないよな。それにしても、利益配当が株主総会の決議事項ではない場合、株主は配当について何も言えないのか?」

配当議案を株主総会で扱わないことができる

立川「原則的には、定款で取締役会が配当を決議すると定められていても、株主総会で議案として扱うことは可能です。
しかし、「剰余金の配当に関する一切の事項について株主総会の決議で定めない」旨の定款の定めを置いた場合には、株主総会において、株主による配当の議案提出が認められなくなります。」


良介「会社を経営する側とすれば、定款で取締役会が配当を決議すると定めた以上は、わざわざ株主総会で議案として取り扱うことはないだろうから、その定款を設ける会社は増えるだろうね。」


立川「そんな気がしますね。株主の利益配当請求権が重要であって、それを不当に制限することは許されませんが、いちいち株主総会を開かなければならないとすると、会社に時間・費用・手間の負担がかかるため、かえって配当が行われにくくなるということも考えられますしね。
それに、配当については株主総会で議案として扱われないとしても、当該配当政策をした取締役の解任については株主総会の議案とすることができますので、株主にとってそれほど大きな不利益とはならないと言われています。」


良介「なるほどねえ。おっと、携帯が鳴っている。ちょっと失礼。」


立川「どうぞどうぞ。」

 

良介「もしもし・・・・。」

                                (つづく)

 

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