第12回 投資適格①

有限会社小平食品は、冷凍食品の加工業者で、

2代目社長の小平良介の手腕により急成長、現在約200名の従業員を抱えている。

小平食品の取引銀行は、府中銀行という地方銀行であり、

小平食品の担当は、立川伸吾という行員である。

府中銀行は、100%出資の子会社である府中キャピタルという

ベンチャーキャピタルを傘下に有するが、

府中キャピタル新規事業部の高尾直道と立川伸吾は府中銀行の同期入社であり、

日頃からお互いにいろいろな相談をする仲である。

本日は、高尾が府中銀行に所用で立ち寄る機会があったため、

時間を合わせて、立川と高尾は一緒に少し遅めの昼食をとっている。

~府中銀行本店近くにあるトンカツ屋において~

高尾「久しぶりだなあ。キャピタルに移ってからは、会社の近くにこんなに旨いトンカツ屋はなくてさあ。たまに、むしょうにここのトンカツが食いたくなるよ。」


立川「今日は、ちょっと時間が遅めだから、すぐ入れたけれど、いつもはすごい行列だから、俺でもなかなかここでトンカツを食うことは少ないんだよ。」


高尾「えっと、「上カツ定食」でご飯、キャベツ大盛で!」


立川「僕も同じやつ!」

企業再建と新規出資者募集

立川「ところで例の企業再建案件はうまくいってるの?」


高尾「うん?ああ、あの金型屋さんの件ね。難しいなあ…。ああいう特殊技術を売りにしている会社だから、社長を完全に外した形では再建は立ちゆかないし、債権者もいろいろ思惑があるから、再建プランにああだこうだ口を出すもんだからいっこうにまとまる気配がないんだよ。」


立川「新規出資者は集まってるのか?」


高尾「うちのキャピタルが中心になって、あちこちまわっているんだけど、なかなかねえ…。どこの会社も資金の余裕はあるみたいなんだけど、反応はイマイチだね。」


立川「それって、その金型屋さんの収益を危ぶんでいるから?」


高尾「あながち、そうでもないんだ。俺も詳しくはないんだけど、「特殊加工用金型」っていうのがその金型屋さんの売りらしいんだけど需要は結構あるらしいんだ。
だけど、社長が無茶苦茶な数の技術者を抱えたり、設備投資をしたから、今日の状態になったわけで、ウチが出資の要請をした相手方企業は一様に「食指が動きづらい」って言ってたよ。」

出資適格と機関設計

立川「なるほど。そりゃ、お前の腕の見せ所じゃないか。やりがいがあってうらやましいぞ!」


高尾「ちょっ、ちょっと、なんだよ急に。どう腕を見せるんだよ!
立川 会社法では、会社をいろいろ自由に設計できるようになったのは知っているだろ?」


高尾「少しは…。」


立川「だから、その金型屋さんに対して、出資が受けられやすい会社となるよう提案するんだよ。」


高尾「例えば?」


立川「例えば、機関設計がまず問題となるよな。

高尾、もしお前が出資する側だとした場合、社長1人が取締役という会社と、取締役会とか監査役とか会計監査人とかが揃っている会社とどっちに出資したい?」


高尾「そんなの聞くまでもないだろう。社長オンリーの会社なんて危なくていやだよ。」


立川「逆に、取締役が100人くらいいるというのはどうかな?」


高尾「うーん。多いに越したことはないと思ったんだが、100人は何か違和感があるけど…。」


立川「そんなに取締役を抱えちゃったら、いくら儲けても、取締役報酬で消えちゃうんじゃない?」


高尾「そうそう!機関を複雑にすればコストがかかるじゃないか!」

一部免除・責任限定契約

立川「そうだね、高尾君。そういう視点も重要だ。ほかにも、取締役や監査人の人選の問題も考えないといけないね。」


高尾「能力があって、それから…。」


立川「もちろん、能力も重要だが、出資する側からすると、そんな能力なんていうのは見えにくいんだ。だから、例えば、「元大手○○株式会社取締役」とか「弁護士」とか「公認会計士」なんていう肩書きがあると安心するよね。」


高尾「そんな簡単に言うなよ。そういう人達は忙しいし、一旦潰れかけた会社の役員になんか簡単にはなってくれないよ。会社が何か問題を起こしたら、連帯責任を負わされるからな。」


立川「そこで、そういう人達に安心して、役員になってもらうために、一部免除や責任限定契約があるんじゃないか。」


高尾「それは、どういうものなんだ?詳しく話してくれよ。」


立川「役員の任務懈怠による損害賠償責任の一部免除については、株主総会特別決議が必要であるのが原則なんだけど、監査役設置会社においては、一定要件下、取締役会決議により、その責任を一部免除することができる旨を定款で定めることができるんだよ。」


高尾「責任限定契約とは?」


立川「社外取締役の任務懈怠による損害賠償責任については、一定要件下、定款で定めた額の範囲内で予め会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を当該取締役と締結することができる旨を定款で定めることができるんだ。」


高尾「なるほどねえ。だから、「心配しないで、取締役になって下さい」と言えるわけだ。そして、出資者には、「ウチはこんな取締役がいます」っていう感じでアピールするわけか。」

出資適格と内部統制

立川「内部統制も重要だよね。会社法では、大会社には内部統制システム構築義務があるから、多くの会社では「法律が出来ちゃったからしょうがなく…」みたいな感じで取り組んでいるみたいだけど、むしろ、出資者に「ウチはこんなにしっかりした内部統制システムがありますから安心して出資して下さい」って積極的に活用すべきだと思うなあ。」


高尾「ということは、逆に、大会社でなくても、出資要請のために内部統制をあえて構築するなんてこともあり得るってわけか。」

会計参与

高尾「俺もひとつ考えついたぞ。会社に会計参与を入れるというのはどうだろう。」


立川「高尾、お前、会計参与を知っているのか?」


高尾「俺だって、少しは知ってるぞ!会計参与というのは、会計に関することをする役員だろ。それで、会計参与は税理士か公認会計士しかなれない。それから…。」


立川「会計監査人との違いは?」


高尾「会計監査人というのは、公認会計士しかなれない。」


立川「いや、だから、会計参与と会計監査人の仕事内容の違いは?」


高尾「両方とも会計に関する仕事だけど…。なんか、よく分からなくなってきた。頼む。教えてくれ。」


立川「会計監査人、つまり、監査法人は会社の外部にあって、取締役の提出した計算書類の矛盾・不備等をチェックするんだ。

だけど、会計監査人は取締役より提出された書類を基礎として監査するだけだから、例えば、取締役が会計監査人に見抜かれないように巧妙に売り上げの水増し工作等をした場合には、計算書類の適正が確保できないよね。
そこで、会社の内部にあって、取締役とともに計算書類等の作成を行う機関があれば、こういう取締役の工作を未然に防ぐことができるっていうことで、作られたのが会計参与制度なんだ。」


高尾「じゃあ、やっぱり、俺が言っていたように、会計参与をつけるって、悪くないじゃん。」


立川「そうとも。どうも、巷では、「会計参与制度が会社法でできたけれども誰も活用なんてしないだろう」って言われているけど、出資者側から見れば、会計参与が入っているっていうのは出資金がへんなことにつかわれないだろうっていう安心感に繋がるよね。」


高尾「なんで、「誰も活用しないだろう」なんて言われているの?」


立川「中小企業は、そもそもコストをかけたがらないし、大企業でも、外部監査を受けるんだから、それ以上に会計コストをかける必要はないって考えるだろうと言われているんだ。
それから、会計参与は会社内部に入り込んで直接会社の数字にアクセスするので、それを嫌う経営者も少なくないとか、会計参与の責任も必然的に重くなるから、そもそもなり手がいないだろうと言われているんだ。」


高尾「しかし、出資を受けるという視点から考えると、意外に会計参与はバカにできないかもね。なり手がいればだけど…。」


                         (つづく)

 

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